2016年9月15日木曜日

僕には“夢”がありました。

こんにちは、六代目彌市です。


突然ですが、僕には夢がありました。


それは、秋田伝統の桶職人である

秋田県は、五十嵐桶樽工房へ桶づくりの修行へ行きたい!


という夢でした。



今日は少しおはなし長くなりますが

私の夢のお話ししたいと思います。




みなさんご存知の通り、

今年の1月から私は、地元愛知の御年83歳の師匠に

桶づくりを習っています。




でも、実は私が

最初に桶づくりを熱望したのは

現在の師匠ではなく、


先に話した、

秋田県の五十嵐さんだったんです。


なぜか?


それは、今までの三浦太鼓店の桶の胴

ほとんどをこの五十嵐さんが作ってくださっていたからです。




一般的な担ぎ桶サイズから、


当店オリジナルの様々なサイズの桶や、


当然!のことながら三六-SABUROKU-も

当然この五十嵐さんの手によるものでした。





だから、この人をなくして

今の私たち三浦太鼓店はない!

そう言ってもまったく大げさな話ではありません。



太鼓用の桶というのは、

一般的に使われる寿司桶や酒樽とは

ちょっと違い、


材料が柾目と言って、

木目がまっすぐ美しいことと、

胴体に太鼓らしい膨らみが必要であることから


ただでさえ少ない桶職人の中でも

さらに太鼓用の桶を作れる職人というのは

全国にも数えるほどしかいないんです。



そして、その中で

この五十嵐さんが作ってくださる桶は、

この人は人間国宝だ!


そう思えるほどの神業でした。






何がすばらしいって、

とにかくまずは見た目のその美しさ。



今、自分で作るようになったから

余計にわかるんですが、


1枚1枚の板を張り合わせて

作る桶胴は、合わせる板の幅は

まったく決まっていません。


だから、経験と感覚で

仕上げたい大きさを作っていくんですが


天然自然のものを相手にして

1mm2mmの仕上がり誤差は当然どころか

1㎝以上の誤差が出てしまうことなんて

平気であります( ;∀;)


でも、五十嵐さんは私たちが指定した

サイズに対してどんな大きさであっても

1mmの誤差もなく毎回仕上げてくださっていました。





そんな、人間国宝五十嵐さんに

飛行機に乗って初めて会いに行ったのが

去年の秋の事でした。





これが五十嵐さんの工房です。




地元秋田で、三代続く桶職人の家系だそうです。


65歳の五十嵐さんはご長男さんも見えるそうですが、

残念ながら後を継ぐことはなく

お一人でやって見えました。



店の中には、

原木から仕入れて何年も乾燥させている

秋田杉が平積みに!





お一人でやられているということで、

決して広くもなく、

お世辞にも綺麗と言える作業場ではありませんでしたが、


ここから、あの桶たちが

生まれているんだ!

そう感動したのを

今もはっきりと覚えています。




同じ伝統に生きる職人同士。


“伝統”とは、先人たちの知恵の結晶なんです。


だから、この人の知恵を!

この人に、桶の作り方を

習う事ができたら、、、、


私は、この世の中にどれほど素晴らしい

“音”をこれからも届け続ける事ができるだろうと思い、


私は五十嵐さんへの弟子入りを志願しに行ったんです。



でも、残念ながら断られてしまいました。



もちろん、必死でこちらの想いは伝えました。


五十嵐さんの作る桶がどれだけ

素晴らしいかという事、


そして、そこから生まれる“音”を

これからも守り続けて行きたいという事。


日本の伝統、これからの

未来にその知恵が必要だという事。


それでも、ダメでした。




そんな、五十嵐さんが

明朝お亡くなりになられてと、奥様から

突然のお電話を今日頂戴いたしました。


がんだったそうです。


私がお伺いした時は、

全然そんな気配もなく、お元気でした。



また、一つ

日本の伝統の灯が消えてしまいました。



私は、今の師匠に習って

ある程度、見せらる桶を作れるようになったら

五十嵐さんのところへ行き


自作の桶を見てもらうのが“夢”だったんです。



しかし、その大きな夢は

永遠に叶わぬ夢となってしまいました。



秋田へお邪魔した時、

たくさん今まで聞きたかった事を聞きました。


桶づくりのこだわりはもちろんのこと、

秋田杉への想いや、

日本の伝統のお話し。



そして、五十嵐さんの作った桶の中に

必ず入っていた印の意味を尋ねました↓




五十嵐さんの桶には、

必ずこの印が入っていました↓






これが一体なにを意味しているのか?



単純な疑問ではありましたが、

お会いするまでずっと知らなかったんです。



この印は、

五十嵐さんが作った桶であるという証だそうです。



私達、太鼓師が胴の中に書く名前と

同じです。


これは、自分自身で作った桶に対する

仕事に対する“責任”の現れです。



職人は責任感の強い人が多いそうです。



五十嵐さんの言葉から感じたのは、

“生きる”ことに対しての“責任”でした。

自分の仕事に対する“責任”




そんな五十嵐さんの姿勢から、

職人の仕事とはどういうことかという事を

無言で教えてもらった気がします。



そして、私は

今そのすばらしい桶をお手本にしています。


直接、桶づくりを教わる夢は

叶いませんでしたが、


私は、無言であれど

この桶からたくさんのメッセージを

いつも受け取っています。



あらためて感じました。

“伝統”ってこういうことなんだろうな。


“こだわり”や“技”の中にある本質は、

人の“想い”です。



そうした、人から人へ伝わる

本気の“想い”こそ伝統なんだと確信しました。



今日は十五夜。


五十嵐さんへの感謝と、心からのご冥福を

お月さまに願いたいと思います。


あなたの“想い”は今も私の胸の中にあります、、、